「地域間交易2.0」がもたらす
「希望の経済」
地元の産品を地元で消費するのは「地産地消」だが、「互産互消(生)」とは何か?2017年3月に静岡県掛川市で開かれた互産互消フォーラムでは、「産地同士が互いの産品を取引し消費し合う」、「東京を介さないローカル・トゥー・ローカル(L2L)の関係構築」、「単なる商品流通を超えた人と人との交流と交歓」などのフレーズが語られた。筆者が特に印象に残ったのは、北海道豊頃町、京都府京丹後市、沖縄県うるま市から集った人々の熱量の高さだ。形だけの「お付き合い」ではない、互産互消の実践がこの時代における地域の「希望」になっていることを実感した。
互産互消は単なる地域間交易ではない。その進化形である「地域間交易2.0」と呼ぶべきものだ。従来の市場原理の下では、地方の産品は大消費地に送られ、しばしば安く買い叩かれる一方で、地元では買うこともできない。「そんなバカな話はあるか」と始まったのが、地産地消の運動だ。体験・滞在型のツーリズムが定着し始めた時代で、地域の人々に地元に「あるもの」へ目を向けさせるきっかけを与えた意味で、一定の意義があった。
しかし今後、日本の急速な人口減少が見込まれる中で、地域の中だけで閉じた取り組みでは発展の展望が見えてこない。地産地消の成果である「地域資源の発見・磨き上げ」を基盤とし、地域が互いに直接交流し合うことで、地域の魅力をより一層輝かせ、地域に生きる人々が豊かさと楽しさを実感できる社会を実現しようという理念とロマンが、互産互消の原動力となっている。
互産互消が掛川の地で提唱されたのは、決して偶然ではない。30年以上前から「生涯学習都市」「スローライフシティ」を旗印に、小さくともキラリと輝く個性と矜持を持ったまちづくり、ひとづくりを進めてきた土壌があった。だからこそ2000年代以降の緊縮・行革の流れの中で、地方分権の理念が色褪せ、今なお中央(国)依存の意識のままの地域が多い中で、地域が自立して生きていく道を見出そうという思想と実践が、掛川の「民」から出てきたのだろう。
互産互消が今後急速に広がるかはわからない。もしかするとまだ10年、20年早いのかもしれないが、時代が追いついてくるかもしれない。時代を考えるために話を少し広げると、米国のトランプ政権の誕生を挙げるまでもなく、資本主義経済は今、危機に直面している。新自由主義的な資本主義は、規制緩和や減税等の政策を通じて、世界各国で富と所得の国内格差を拡大させ、深刻な需要不足に陥っている。政府と家計を借金漬けにして、無理矢理需要を創り出そうとしても、景気は浮揚しない。現状に不満と閉塞感を抱く人々が「ガラガラポン」を期待し、左右両極のポピュリストに「希望」を託そうとしている。「道徳なき経済」の論理的帰結だ。
このような不透明な時代だからこそ、単なる否定と破壊の情動を超えた、新たな経済のあり方と仕組みを提示することが必要だ。互産互消は「資本主義の非物質主義的転回」という世界の潮流に沿ったローカル・レベルの「希望のビジョン」となりうる。楽しく、魅力的な実践を通じて、この理念がさらにバージョンアップしていくことを期待したい。
西村宣彦
Nobuhiko Nishimura
北海学園大学教授。専門は地方財政論。夕張市からギリシャまでフィールドワークを行い、緊縮財政の社会経済的影響と再生方策を研究。夕張市委員として「緊縮一辺倒からの脱却」を提言する傍ら、サマーキャンプのサポートや、学生65名と映画祭ボランティアを務めるなど、夕張で地域活動を行う。1974年兵庫県生まれ、札幌市在住。