冬から春には花粉のある暮らしを避け、オーストラリアでトレーニングしていたのが10年前。その後、行き来の容易さと安心感から沖縄に避難先を変更、交通量が少ない北部の名護市に拠点を置くことになりました。
競技生活は身体が資本。食べることに関心も高かったので、美味しい野菜が安く手に入ることが、沖縄を選んだ大きな理由でもありました。日本のほぼ真ん中、静岡県掛川市の出身で、関東在住の私にとって、東西どこに行っても食材に新しい発見はないけれど、沖縄は見たことがない野菜たちとの出会いに驚きました。地元農家が野菜を販売するJAファーマーズに足しげく通い、これらの野菜を買い込んで調理するのは本当に楽しいものです。本州では購入に踏み切れない高価なフルーツは大袋で安価、国産バナナの美味しさったらない!のです。
名護での暮らしは少しのんびりで、お店も大抵は日曜休み。今では挨拶を交わす人も増え、トレーニングに行くときには “気を付けてね”と声も掛けてもらえます。ゆったりとした環境で気持ちが緩み、本州での生活に戻ったとき、その落差にストレスを感じるかも?といった心配は杞憂に終わりました。関東や静岡に戻ると、ヨシ!また頑張るぞ!という気力が湧くのです。二つの生活、そのそれぞれに活力を与えてもらったようです。
それぞれの土地で感じることは、必ずしも良い事ばかりではありません。しかし、マイナスと感じていたことも、それはそれで土地の流儀なのだと考えられるようになりました。二つの生活が、人間としての幅を拡げられたと勝手に思っているのですが(笑)、さて、どうなのでしょう。
自転車競技選手/LUMINARIA所属
静岡県掛川市生まれ。
2009年全日本自転車競技選手権大会に優勝。
11月中旬から4月中旬の5ヶ月間、北海道のサイクリストはシーズンオフだ。ある人は室内でツール・ド・フランスの録画を見ながらローラーに乗り、ある人はファットバイクで雪上を走り、それぞれ憂さを晴らしている。
私の自転車生活は、静岡と北海道のサイクリング交流をきっかけにシーズンオフがなくなった。東京などへの出張の度に、静岡県掛川市を中心とした遠州地域でサイクリングを楽しむライド・ライフが普通になりつつある。
温暖で通年サイクリングができる環境というのなら、四国や九州でも良いのだが、なぜ静岡なのか。不定期に出没する私に付き合ってくれるロコサイクリストがいて、私の自転車を預かってくれるサイクルショップがあり、行きつけのカフェや居酒屋もあって、地元の祭りで一緒に酒を飲む仲間がいるからなのだ。おじゃまさせてもらう遠州の地域コミュニティがとても居心地がよいのである。
静岡空港と千歳空港の間に空路があることも大きい。静岡とは直行便があり、東京からも新幹線でアクセスしやすい。このような交通基盤が、私のデュアル・ライフも可能にしている。
サイクリングを通じて、直行便という「インフラ」の存在意義を再認識するとともに、地元の仲間と走り、食べ、飲み、語りあう日常の中に静岡の魅力を感じ、そこに通ってしまう。傍目にはサイクルツーリズムに見えるだろうけれど、実は「ヒトとヒト」「ローカルとローカル」の信頼関係づくりに寄与しているのではないか。その関係性に、数値経済を超えた地方の活性化や地方創生の未来を確信しつつある。
原 文宏
Fumihiro Hara
一般社団法人シーニックバイウェイ支援センター代表理事/博士(工学)
モビリティ(交通、物流)の視点から、生活、観光、産業振興を考える地域づくりプランナー。最近は、自転車を活用した地域づくりを実践するサイクリストでもある。北海道北広島市在住。