文・写真/残間正之
(フォトジャーナリスト・札幌市在住)
「イモをやるで~!」のひと言に「待ってました!」とばかりにサイクリストや市民活動の仲間たち12人が集まった。場所を提供してくれた井村征司さん(ローカルライフスタイル研究会代表)宅では2時間前から芋汁(自然薯汁)の準備開始。芋汁は男の仕事。代々伝わる大鉢を坐禅するがごとく抱え込み、背丈ほどもある自然薯を粘りが出るまで額に汗して擦り続ける。オタマで掬った自然薯が50センチほど伸びたら、卵、日本酒、そしてサバや椎茸の出汁の効いた各家庭秘伝の味噌汁を大鉢の縁に回すように投入し、さらに擦る。自然薯を傷つけずに掘るのも重労働だけれど、芋汁作りの手間暇も半端じゃない。
食卓には駿河湾の由比港から「桜えび」と「生シラス」、安倍川上流の山葵発祥の地「有東木(うとうぎ)」の生わさびと駿河湾で獲れた戻りガツオ、そこに互産互消で繋がった京丹後の「間人(たいざ)ガニ」が飛び入り。地域風土の育んだ顔の見える食材を前に井戸端会議ならぬ芋汁会議が弾んだところで、いよいよ麦飯に芋汁をたっぷり掛け、各自がズルズルと何杯もお代わり……これが遠州流「イモ」の流儀。
山形の芋煮や北海道の石狩鍋もそうだけれど、旬の地元食材を囲んで地酒を酌み交わす。それは自然の恵みや大地の実りへの感謝であり、地域共同体としてのコミュニケーション手段だったに違いない。巷では「おもてなし」なんて言葉がひとり歩きしているけれど、正直言って、この芋汁を食べた瞬間、私は「掛川の人」に成れたような気がするのだが‥‥。
体感する旅。心に刻む旅。山海の珍味と美酒に酔いしれる旅‥‥旅も様々。名所旧跡巡りもいいけれど、記憶に深く残る旅とは現地の自然や暮らしに直接触れることのような気がする。
静岡と札幌のローカルtoローカル旅を模索するべく、遠州女子2人が札幌の地を踏んだ。到着早々、深夜まで道産ワインとチーズで盛り上がり、翌早朝、北海道大学構内を散策しつつ総合博物館でマンモスの複製やアイヌ文化に触れる。その後、簡易型のアイゼンを装着し、札幌市民の憩いの場である円山(標高225m)に登頂して札幌市内を一望。下山と同時に地元野遊び仲間が集う秋味(アキアジ=鮭)のスモーク作りに合流。総勢15人。スモークボックスから立ち上る煙をつまみに、食べて飲んで語ってあっという間の4時間を過ごす。
翌日は雪に埋もれた車の発掘作業を皮切りに、札幌郊外の国営滝野すずらん丘陵公園で歩くスキー3キロコースにチャレンジ。夕方からはロコ夫婦の案内で札幌の夜景を楽しみつつ雪板に挑戦。パウダースノーに頭から転げつつも何故だか笑いが止まらない。夜の部は「宅飲み」と称するホームパーティに合流。十勝のチーズにハウス育ちのミニトマト、そしてエゾ鹿肉の腸詰とイクラと小樽ワイン‥‥。
旅の醍醐味のひとつは地元で知り合った人との関係性にある。旅先で知り合った人を静岡に招き、その1人が2人、3人に‥‥そんな双方向の関係性が育まれればと切に願う。