私個人の理解では、「互産互消」は「地産地消」の対角にある言葉ではなく、お互いに「ないもの」を交換しあう関係づくり全体を意味しており、「互産互生」の方がしっくりきています。
現在、北海道十勝 豊頃町と静岡県掛川市の間で、「互産互生」のツーリズムをサイクリングで試行しています。雪や寒さで、冬はサイクリングを楽しむことのできない北海道のサイクリストが、その間、静岡県掛川市を中心とした遠州を走り、夏は冷涼な北海道十勝地方を静岡のサイクリストが走るサイクルツーリズムです。
つまり、「季節」を交換して「人」が行き交う関係づくりです。南北に長い日本の地理的特性を活用した「互産互生」ツーリズムですが、これを地球規模で実施しているのが、北海道のスキーリゾート「ニセコ」です。南半球が夏の時期、オーストラリアのスキーヤーがニセコに長期滞在してスキーを楽しんでおり、スキー場近辺の居酒屋にはいると自分が外国にきているような錯覚に陥る光景です。
では、北海道のスキーヤーが夏にオーストラリアに行っているでしょうか?結論は、それほど行っていません。そのせいでしょうか、カンタス航空のケアンズ・メルボルンと新千歳空港を結ぶ定期便は平成4年から運休状態になっています。経済合理性の中で、このようなツーリズムが成立することを否定するものではありませんが、もし、定期便が復活したら北海道での機材整備、機内スタッフの入れ替え、機内食の供給等、観光に付随して様々な産業の活性化や雇用が生まれる可能性が広がるということです。
うまく言えないのですが「互産互生」のツーリズムには「金の切れ目が縁の切れ目」のようなツーリズムではなく、「相互」に相手の街づくりや地域づくりまで理解した関係構築によって、ツーリズムがお互いの地域課題を解決していくための「手段」の一つとなりえる可能性を感じています。
今のところ、私たちは1年に1回、相互にサイクルイベントを実施しながら、サイクリング交流の中で、お互いの日常生活や地域の自然・歴史・産業を学びあっている段階です。ただ、私個人は、少し先導的な動きをしており、ロードバイクを掛川市に置いて、冬は、かなりの頻度で掛川市周辺のサイクリストの皆さんと、様々な場所を訪れ、地域の歴史を学んだり、祭りを見たり、地元の居酒屋で飲んだり、食べたりしている中で、長期滞在してみたいとか、何か仕事もしてみたいという気持ちが芽生えました。
「互産互生」ツーリズムには人の意識に変化を促す何かがありそうです。私のような気持ちになる人が増えて、相互に季節交換による長期滞在者が増えたり、災害時のバックアップ用期間移住地などへ発展したり、相互に支店、営業所が開設されるようになることを夢見ています。
原 文宏